大隅良典先生のノーベル賞レクチャーの3DCG映像を作ったことと、そこから改めて悩む自分の今後。

日本時間で2016年12月7日の夜22:30から、スウェーデンのストックホルムにて、今年のノーベル医学・生理学賞を受賞された大隅良典先生のノーベル賞レクチャーがあり、大隅先生のご研究であるオートファジーの分子メカニズムに関する約90秒のフル3DCG映像を制作させて頂きました!

YouTubeで早速アーカイブになっており、53分50秒あたりから見ることが出来ます!!

あまりにも制作期間が短く、そしてあまりにも専門的な内容だったこともあり、今回、データの取り込み・加工からストーリー制作からシーンのセットアップからカット割からカメラワークからライティングからレンダリングからコンポジットからタイポグラフィーから何から何までぜーんぶ1人でやりました…!

初回の打ち合わせでは大隅先生からも直接解説して頂き、微生物化学研究所の野田展生先生東京大学大学院医学系研究科分子生物学分野の山本林先生に毎日監修して頂きながら何とか作り上げました。

特に山本林先生は東大にいらっしゃることもあり、ほぼ毎日連日のように研究室に突撃し、直接ディスカッションさせて頂き、朝から晩まで1人で制作しておりました

立体構造が解かれているものは全て本物の3DCGデータを使い、シェーマ的な3DCGでも、本物の3DCGデータを基にリダクションモデルを作り、それぞれのタンパク質の「紐」の長さも、アミノ酸の残基数や顕微鏡での監察結果を基に作り、Atg13がリン酸化されている箇所も研究結果に沿うように作りました(適当にオレンジ色の球を置いたわけではありませんよ!)。

当初は、本当に最小限の3DCG映像を、ということでしたが、そうなるはずもなく、全体が心地良く揺らめているようにしないと全く映像の魅力がないのでスクリプトを書いて一部を動かしてみたら、「全部動せませんか」となり(当然そうなりますよね…!)、ゆらゆら動きながら手付けのアニメーションも出来るようにして、且つそれぞれがめり込まないようにして、などなど、最終的には映像の最後にSupermolecular Assembly(高次集積)という、それはそれはセットアップだけで泣きたくなるような、超複雑な構造体も3DCG映像にしました。

何はともあれ、ノーベル賞レクチャーに間に合わせて映像を作ることが出来、そして無事に使って頂くことが出来て感無量であります。

大隅先生とは、実は2012年の京都賞で大隅先生とサザランド先生とが受賞されたときに、サザランド先生の受賞記念のワークショップで私もパネリストとして参加しておりまして、お話こそそのときは出来ておりませんが、一応4年前に同じ会場におりました…!

さて、これでノーベル賞に自分が(少しでも)関わったのは

約3年前にEテレでも放送されたシンポジウム田中耕一先生と共演させて頂いたのと、

iPS細胞発見に至った論文を、正しく楽しく学べるアプリ「iPSマスター」をiPS細胞研究所の高橋淳先生に監修して頂いて作った(私の役割は統括)のと、

そして今回の大隅先生の映像とで、合計3件。ちょっとした自慢です…!

さて、ここからが悩ましいところでして…

もっとも過ぎるコメントを頂きました。

もう本当にその通りでして…。

今回は特に顕著だったのですが、内容があまりにも専門的で(時間的な制約もありましたが)結局1人で何から何まで作りまして、つまりは職人芸です。

しかも、大きなお金になりようがない職人芸です。

1億回再生されて広告収入が入ってくる「PPAP」や、みんなが映画館に運んで数千円を払って見る「君の名は。」みたいなことにはなりようがないのです。

これはどういうことかと言うと、多くの人がちょっとずつお金を出し合うことで経済的な価値を生む、というパターンに当てはめることが出来ず特定の誰かがどかっと費用負担をしない限り、制作が出来ない、ということになります(…私はそう思っています)。

制作したもので二次的に収益を上げることも難しく(グッズが売れるとも思いませんし、教育アプリは多少売れることはあるかもしれませんが、だいぶ限定的です)、僕はこの先どうやって仕事していくんだっけ?という悩みが絶えません

間違いなく研究には貢献しますし、教育上の効果もあると信じていますし、自分が携わったものでサイエンスに興味を持つ子供たちが増えるのはとても嬉しいのですが、自分のこの先が思いやられるわけです。

SIGGRAPHで心臓シミュレータUT-Heartの可視化映像が部門世界一の賞を受賞したり、

分子シミュレーションの可視化映像が海外メディアでも取り上げられたり、

新作が世に出て間もない頃には一過性に盛り上がるのですが、その先を持続させるのはとても難しい。

※お仕事としての不満は全くありません。どれも機会を頂けて本当に嬉しく思っております!

僕は可視化とか3DCGプロデュース・ディレクションの人であって研究の人ではないのに、何故かメディアで結果的に僕がシミュレーションの宣伝をしていることになったり、研究の意義について聞かれたりすることもあって、無料の広報の人(自分の会社ではない!)みたいになることも少なくなかったり。いやそこにも不満は全くなくて光栄なことなのですが、もうちょっと自分の生活が安心できるような仕組みを作れないかなぁとか思うわけであります。

講演だけ多くて実績ない人にはなりたくないし、でも持続させるのは難しい。大きな壁にぶつかっていると感じています。

別に短期間でスケールさせたり、規模を大きくしたりすることが正解だとは全く思っていないのですが、でも今後のためにも、もう少し産業っぽく回せるようにしなければいけないと思いますし、そうでないと僕自身が持続出来ません。

エンジニアの人月単価が150万とか200万とかで計算するのだからもっと単価上げたほうが良いよーとかよく言われるのですが、CG業界でそれやったら誰も発注できなくなりますからねぇ。

医療CGやったことない人がやったら3カ月はかかりそうなことを1カ月くらいで出来そうな気もしないこともないので(今回全部自分でやってちょっと実感した…)、3カ月分くらいを1カ月分としてしまっても良い…?…のか……??

自分の単価を上げるのはわかりやすいやり方ではあるのですが、もうちょっとみんなハッピーになれる方法ないかなぁ。

というわけで、嬉しい反面、盛り上がることがあると毎回同じようなことで悩むわけですが、徐々に悩みが大きくなっているような気がする今日この頃です。

どうすれば良いのですかねぇ。


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